イベント

2019.11.20

【CEDEC2019】「ゲームと機械学習の最前線~現状と未来を正しく捉えるために~」パネルディスカッションレポート

  • Facebookでシェア
  • Twitterでツイート
  • はてなブックマークでブクマする!
  • LINEで送る
  • follow us in feedly
  • Facebookでシェア
  • Twitterでツイート
  • はてなブックマークでブクマする!
  • LINEで送る
  • follow us in feedly

2019年9月4日~6日の期間、パシフィコ横浜において、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2019」が開催されました。

本記事では、9月6日に行われた「ゲームと機械学習の最前線~現状と未来を正しく捉えるために~」パネルディスカッションの内容を、一部抜粋してレポートします。

※本文は登壇者の発言をもとに対談形式で記載してあります。

ゲームと機械学習の最前線

奥村:今回のセッションは「ゲームと機械学習の最前線」というテーマでお送りします。AIに関しては、昨年頃からハイプ・サイクルでは、いわゆる幻滅期に差し掛かっていると言われていますが、それでもなお、AI技術の進展や産業への応用は増え続けています。

今回は2名の著名なゲームAI開発者をお招きし、そもそもどのような領域にAIが使われていくのか、AIはどれぐらい使えるのか、などディスカッションをしていきたいと思っています。

本パネルセッションは「CEDEC2018」で実施した「次世代QAとAI」の議論の続編に近い立ち位置になっています。当時は急速に増えて行くゲームへのAI活動の流れを感じながら、特にQA(品質保証)という領域に絞って、現状と今後について議論を行っています。

奥村:このQAに関しては、ゲームのコア部分の体系を作り込む作業とは、少し分離するようなコンポーネントであるため、会社や産学の枠を超えて連携していけるのではないか、というメッセージを発信させてもらいました。

セッションの開催背景

奥村:この1年を振り返ってみると、当時とは比べ物にならないほど多彩な変化があったと思っています。

ひとつの大きな変化としては、AI技術が進歩し続けていることです。連日のように最新のモデルが提案され、応用の幅も広がってきています。その流れはゲーム業界も例外ではなく、1〜2年ほど前まではとりあえずAIを活用してみようといった、導入検証に関する話題が多かった印象ですが、ここ1年ほどは実際にプロダクトに導入され、事業価値を生み出している事例も増加してきています。

そのような状況の中、技術に対する期待感も成熟しつつあり、「ゲーム×AI」に関する議論は、より実践的な話にシフトしてきたと考えられます。また、実際にどのくらい売上貢献可能なのか、AI導入を見据えた開発プロセスや体制の模索も続いています。また、そうした知見は広く世間に公開されており、横断したつながりも増えている印象も感じています。

セッションのモチベーション

奥村:本セッションでは、次に挙げる3つのモチベーションをもとに、ディスカッションを進めて行きたいと考えています。

まず1点目ですが、なるべく多くの実用事業を俯瞰したいということ、2点目はそれらの事例を元にして現時点でAIはどの程度使えるのか、導入の障害について議論していきたいと考えています。

パネリスト紹介

奥村:それではパネリストを紹介したいと思います。まずは株式会社スクウェア・エニックスの三宅陽一郎さんです。

三宅:スクウェア・エニックスのテクノロジー推進部でリードAIリサーチャーとして、10名ほどのAIチームを率いています。過去にはロボットゲームや『ファイナルファンタジー』シリーズのAIの設計などに携わりました。

自分はこれまで、どちらかと言えば記号主義型、シンボルを使った人工知能について担当してきましたが、これからは機械学習の方に徐々にシフトすると考えており、研究を進めています。

奥村:ありがとうございます。続いて株式会社バンダイナムコスタジオの長谷洋平さんです。

長谷:バンダイナムコスタジオで現在開発中のオンラインゲームタイトル『BLUE PROTOCOL』にて、リードAIエンジニアをしています。実際のゲームタイトル内部のAIの開発をしつつ、並行してAI関連の最先端の技術のリサーチや、技術研究を担当しています。

この技術研究の中にはディープラーニングも含まれますし、それとは別に、ゲームに関連しない汎用的に使用可能なゲームAIのエンジンも開発しています。また、キャラクターのアーキテクチャを中心に、汎用的な開発研究にも携わっています。

奥村:そして最後に私はDeNAのAI本部で、主にゲームAIや強化学習といった技術を使った案件のマネジメントを手がけております。個人的な興味領域は、どのようにAIを事業価値につなげるかを考えており、AIエンジニアとプロダクト間を横断する活動をしています。

AIにまつわる用語の整理

奥村:まず本題に入る前に、セッションで使用する用語について簡単に整理します。

一般的にAIとは、人間と同等もしくはそれ以上の処理を行うためのテクノロジー全般を指します。中でも、判断や予測する能力をデータから機械的に学習するものを「機械学習」、さらにその一種で深いニューラルネットワークを用いたものを「深層学習」、いわゆるディープラーニングと呼んでいます。また、ゲーム業界で厄介な事例として、ゲームAIという別の言葉が存在します。

こちらは、学術領域で使われているAIとは全く別の文脈で進歩した概念です。そちらは区別をして使用したいと思っています。本セッションでは、AIという言葉はあくまでも機械学習全般を指すものとして定義します。

AIが推論をする際は、まず信号を数値変換して入力し、機械学習のモデルに組み込みます。ここで行列演算が実行され、結果が出力されます。たとえば異常検知に関しては、この入力が異常である確率が出力されます。

ネコとイヌを分類するAIを作る際の例として、ネコの画像を3色のRGB値に変換してモデルに組み込みます。するとこのモデルはディープラーニングを想定し、ニューラルネットワークを使って行列演算をして、ネコかイヌかの確率を推論します。

奥村:さらに教師データを用いて、なるべくこの確率ループがネコに近づくように、再度トレーニングし、モデルをアップデートする指示、さらに学習を繰り返すことによって、ネコの認知精度がより上がる仕組みになっています。

強化学習は、動物に芸を教え込むような行動に似ており、AIエージェントに対して、ある状況で行動を取る際に報酬をもらえると仮定し、そのフィードバックを蓄積していきます。それを反復することにより、好ましい行動を取るように訓練されていきます。

AI活用の現在

意思決定

奥村:意思決定に関連して、囲碁や将棋の分野において、人間と同等かそれ以上の賢いゲームエージェントが登場しています。

最近では、AlphaGo(アルファ碁)などは、かなり有名になっていますし、特に今年に入ってからのトピックとしては不完全情報原理が話題に上がっています。

例えば『StarCraft』や『Dota』などのゲームタイトルに代表される、長期戦略を扱うタスクでも、人間を超えるパフォーマンスを出すことが可能になっています。

そのような賢いエージェントが存在するデファクトした世界で、どのようにゲーム開発が変わっていくのか、事例を基にした方向性を紹介します。

奥村:1つ目はコンテンツ応用として「Human vs. AII」になります。eスポーツも同様に、ゲーム外の思考性として、人間とAIを戦わせること自体がコンテンツとなる世界が存在すると考えられます。

またゲーム内の思考性として、プレイヤー補助のためにエージェントを使用することも考えられます。初心者の対戦相手としてバランスの良いAIを使うような、ゲーム内コンテンツとしての応用です。

2つ目にQA文脈での応用については、ゲーム内を賢く回遊できるエージェントがあれば、テストも同時に実行してほしい、という発想から生まれています。

DeNA 奥村純

奥村:ゲームの内部が正しく動作しているかを確認するために、エージェントはゲームの中をひたすら動きまわり、自動プレイのテスト環境を作るQAオートメーションを実装しています。

また、ゲームバランスの担保、そもそも「ゲームが面白いことをエージェントに評価させる」動きも生まれ始めています。

実際の事例として「Human vs. AII」のコンテンツとして、『StarCraft』や『Dota』はもちろん、『ブレイドアンドソウル』『Arena of Valor』などのゲームタイトルでも、実際に人間のトッププロを打ち負かすような成績を記録しています。

奥村:プレイヤー補助に関して『逆転オセロニア』では、初心者から上級者までさまざまな強さをパラメーターで調整しており、それをユーザーに合わせたレベル版のAIを用いた練習コンテンツを提供しています。

また、対戦格闘ゲームタイトル『サムライスピリッツ』では、エージェントをミラーリングして他プレイヤーのように振る舞うAIと、実際に対戦可能なシャドーイングのコンテンツも提供されています。

奥村:一方でQAについては『北斗が如く』では、実際にそのゲーム内をエージェントに回遊させてVRAM使用率を可視化し、コリジョン抜け検知をするエージェントを作っています。

奥村:また、GDCなどでも『Battlefield V』や『The Division』などのゲームタイトルにおいて、実際にクラッシュ検知などで役立つトピックスを紹介するセッションが、注目を浴びていました。

ゲームバランスの担保に関しては『Candy Crush Saga』に採用された、実際に人間のようにプレイ可能なエージェントを、ディープラーニングでトレーニングすることにより、これまで新マップを追加するために、人力でのテストプレイが1週間ほど必要だった工数が、およそ数分に圧縮した例が紹介されています。

さらにCEDEC2018では、『D×2 真・女神転生 リベレーション』『コトダマン』などのゲームタイトルについて、さまざまな強化学習の遺伝的アルゴリズムを使った、ゲームバランスの調整をした事例も公開されています。

奥村:このような強化学習や強いエージェントが生まれることは、もちろん素晴らしいことなのですが、ゲームごとに特徴量のアーキテクチャを設計する必要があります。それをタイトルがリリースされる度に作業が必要となることが問題でもあり、スケールしづらい要因にもなると考えています。

株式会社スクウェア・エニックス 三宅陽一郎氏

三宅:現在、採用されているフレームはエージェントアーキテクチャです。「センサー」「認識」「思考」「行動」「エフェクター」という形ですね。いわゆるロボティクスから借りてきたアーキテクチャにそれぞれのゲームの知識表現を作り、ゲームに対応します。しかし、それはやはりゲーム依存なんです。

ニューラルネットの特徴は、そのような表現の規定が不要なところにありますが、それでもインプットするパラメーターを決める必要があります。

さらに、ニューラルネットワークの形を決めるノードの組み方の問題も存在します。組み方には特に規則性がないため、現在では適当に決めています。特に最初から最後まで、すべてE2Eで組んでしまおう、という方向がこれまでは強かったですね。

ゲームをプレイする人工知能を、すべてニューラルネットで実現することに関しては、アルファ碁やアタリのゲームレベルにおいて成功したところから、若干夢を見た部分がありましたね。大型ゲームにおいてニューラルネットだけでAIを実現しようとしても、思ったとおりに実現できないことが分かりました。

昨今の複雑なコンテキストを持つゲームは、ある程度古典的なアーキテクチャが存在し、その1個のモジュールをニューラルネットで実行する方法に、今後の未来があると感じています。

特に、階層型タスクネットーク(HTN:Hierarchical Task Network)など、問題をタスクに分けた上で、各タスクをニューラルネットワークの学習に任せる、という方向が有望かと思います。

そう考えると、ゲームシステム内のターゲッティングや魔法選択、アイテム選択などの技術はむしろ再利用できるようになるのでは、と判断しています。

奥村:ちなみに長谷さんのチーム内では、BehaviorTreeやBAのアーキテクチャについて、さまざまなタイトルで展開できる標準化がされていると思いますが、その観点でお話しいただけますでしょうか。

長谷:私も三宅さんの意見と同様に、E2Eで機械学習させようとすると、問題が複雑すぎてうまく動作しないことが多い印象です。そのため、BehaviorTreeのノウハウで、機械学習で選択するような仕組みを作るほうが、問題が限定でき、機械学習でも実行しやすくなる部分と、実際サーバがコントロールしなくて良い部分、機械学習に任せて良い部分に分類できるので、最適だと考えています。

機械学習をゲームで応用する方法については、そのゲームのキャラクターの動きに関して、重厚なイメージで動く場面、もっと爽快感を打ち出したい場面など、ゲーム制作の方向性によって求めている内容が違うため、共通化に関してはやや疑問に思っています。

株式会社バンダイナムコスタジオ 長谷洋平氏

奥村:実際に『逆転オセロニア』でもディープラーニングでエージェントを組みましたが、ゼロベースでチューニングしなければならず、大変でした。最近ではオープンAIファイルというエージェントを公開しましたが、そのアーキテクチャを見ていると、結構似通っていると感じますね。

そのような理由で、しばらくはゲームが新しく作られるごとに、ゼロベースでアーキテクチャなどをチューニングする必要があるのですが、ゲームジャンルに合わせて、ある程度アーキテクチャの指針は平準化して、共通のナレッジとして蓄積できる気がしています。

ただ、お二人がこれまで述べたように、やはりE2Eではないことはその通りだと思います。今後ディープラーニングなどが生き残っていく余地は、十分残されている気はしていますね。

続いて、先ほど長谷さんが述べていた「コントロールできる余地がない」話題について、もちろんスーパーヒューマンのエージェントが誕生すること自体素晴らしいのですが、そのテクノロジーを実際にゲームに適用すると考えたとき、コントロール不能だと怖いですよね。

プランナーからは「ここで必殺技を出したい」「変な挙動は絶対やめてほしい」など要望が出ますが、AIはブラックボックスになりがちなので、出力コントロールできないことは多々あると思っています。

その場合、どれぐらいコントロールすべきだと思っているのか、完全にディープラーニングのようなAI化ができるのか、それとも人間側でのコントロールする余地は必要でしょうか?

長谷:やはりその部分もゲーム内容で違い、デザイナーが決めた通りに動いてほしい場合もありますし、最近の複雑なゲームでは、チュートリアルやルール説明では完全に網羅できない部分が増えてきているため、一部機械学習を導入する必要があると考えています。

また、ゲームにどのような遊びを組み込むかによって、どの程度の機械学習を利用するかの判断は、ゲームそれぞれで、きちんと検討しなければいけない部分ではありますね。

特にアクションゲームや格闘ゲームのCPUキャラクターは、ルールベースで書かれている部分が多く、CPU戦でいくら戦っても、対人戦ではうまく動作しないことも多いんです。

さらに、最近活発になっているeスポーツの人気を上げるために、CPU戦をもっと人間らしく動かし、対人戦スキルアップの練習場所として提供できれば、その分野では、より機械学習を活用してAIを組み込む流れが生まれるのではと考えています。

三宅:ゲームAIの活用には3つ条件があって、まずその技術で多様性があること、そして拡張性とカスタマイズ性があることだと考えています。

昨今のゲームは大規模化しているので、細かい部分まで追いきれなくなっていますが、現段階での人工知能は、フレーム問題が解決しないと学習できないため、その問題を切り分けるコンテキストスイッチみたいな上層は、従来通りのステートマシンで大丈夫だと思っています。

例えば、モンスターと戦う、宿屋に泊まる、宝物を入手する、といった単純な作業はニューラルネットで処理し、ゲーム内での変更部分があればWrapする形で、ある条件が来たら逃がすような対応が良いと考えます。

メインはニューラルネットですが、周囲はルールベースで支えるような使用方法が現実的だと考えており、コンテキストスイッチと細かいタスク学習を同時に実行するのは、少し難易度が高いと思いますね。

奥村:結局ルールベースとディープラーニング、機械学習のハイブリッドに進化していくんですかね。

また、ディープラーニングは特徴抽出が得意な部分も含めて、自動的に処理してくれるのが強みなので、どうしてもE2Eで問題を閉じたがる部分はありますが、その観点ではゲームなら存在するイメージではありますね。

さらに似たような観点で、実際にAIのエージェントを作成した際、その挙動を誰がどのようにチェックするか、QAの分野にも関わりますし、トレーニングしたデータを、そのまま野放しにプロファクションに導入していいのか、不確実なデータを出すのは怖い、といった意見があると思います。

三宅:新しいAI技術はデバッグできないことが課題になっていますね。例えば自分が15年前にパス検索を提案した際も同様の状況でした。

ある条件下で、問題のあるアウトプットが出た際には、Wrapして外部、もしくは禁止して逃がす処理が必要です。現時点では、ニューラルネットを完璧に仕上げることは、誰にも不可能であり、保証するアルゴリズムも知られていません。

品質保証については、ある程度は可能ですが、補助策を設置した方が開発工程としては現実的だと考えます。納期があと1週間ほどの時期に、ニューラルネットを再度学習させて、再発注させることは回避したいですよね。

長谷:どうしても守りたい部分だけ、セーフティネットで禁止することは必要ですね。昨今のゲームはAIに限らず、(人力では)デバッグしきれない状態になっているため、すべての不具合を取り除いてリリースすることは、ほぼ不可能だと考えられます。

また、AIや機械学習、現在使用されている技術が100%完成しているわけではないので、禁止したい行動の部分だけコントロールすることが可能なら、それほど完成形を重視することはないと考えています。

QA・デバッグ

奥村:続いてのテーマはQAデバッグについてとなります。

三宅:最近のゲーム開発では、複雑化や大規模化がキーワードになっています。特にAAAタイトルのオープンワールド化が著しく、現在では50キロ四方を超えるような、巨大なスケールのゲームフィールドに対して、人間の手ではデバッグできない規模まで来ていると考えられます。

三宅:そこで、人間の代替役という意味を含め、AIと共に人間がデバッグしていかなければ、もはやコストや時間の意味でも、現実的な世界で普及がストップしてしまいます。その品質管理の部分を自動化するフェーズに、AIの自動プレイや自動バランス調整の案件も絡んでくると考えます。

三宅:ゲームAIの歴史は、大きく分けるとゲーム内外のAIが存在し、キャラクターAI・ナビゲーションAI・ベターAIなど、おおよそ3つに分類されます。

開発工程でのAIは、ゲーム外部のAIのことを指し、さまざまな技術、勝利方法など、その中で一番の重要項目としてQAのAIが存在し、2015年頃からQAのAIについて機械学習を用いることが、GDCでの発表以降、現在ではホットトピックとなっています。

例えば『Battlefield V』の機械学習に関して、現在は実際にあまり応用はされておらず、プレイヤーのインターフェースを発揮する形で、AIがキャラクターを動作することで自動にBotを操作して、デバッグをしています。

三宅:また、Frostbite engineのスクリプト、ビジュアルスクリプトでFrostbite schematicが存在しますが、これは機械学習ではなく、スクリプトを活用してBotを動かし、できるだけcoverageを上げる形で全領域のナビゲーションを使用、多数のキャラクターを出現させて、負荷や衝突のデバッグをしています。

なお『The Division』では、ダウンロードコンテンツで自動生成することが特徴になっています。ナビゲーションの意志や既存のAIシステムを活用し、機械学習ではなく、スクリプティングやBehaviorTreeを使った形でデバッグをしている事例もあります。

三宅:さらに『The Division』では、プレイヤーのインプットを上手く活用する形で、プレイヤーをフォローイングするログデータを使用し、ログサイクルを回しながらデバッグをしています。

もちろん最初のテストプレイは人間が担当しますが、さまざまな場所でジャンプ動作をするような、特殊な操作についても、プレイヤーのインプットから記憶させてトレースしています。それにより、AIに統計的に学習させる仕組みです。

プレイヤーのアクションシステムでは、どの場所でインプットが活用できるのかをレコードし、デバッグを実行しています。

三宅:『Battlefield 1』のオンラインモードでは、16体のキャラクターを導入して、大規模戦闘のデバッグ時に、EA SEEDという研究所で、イミテーションラーニングなど機械学習のテクニックを使用しています。

『Battlefield 1』のテストマップでは、さまざまな行動パターンをキャラクターにビジュアルカメラを付け、カメラインプット、行動アウトプットの形で機械学習をさせています。また、マップ上で自動的に動くようなBotを使用し、多数のキャラクターを登場させて、オンラインの負荷をデバッグ、QAしています。

奥村:最近では、事例が増えてきており、網羅しきれない物量になってきていますよね。

三宅:恐らく現世代が、人間の手でデバックできるギリギリの物量だと思っています。要するに次のコンシューマーや次世代のゲーム機対応タイトルでは、AI抜きでは成立しないという方向に、どこの企業も同じ見解を示しています。

そのための予防策として、コストはゼロにならなくても、QAコストを維持するぐらいでのレベルで機械学習を導入するなど、研究開発として進めつつ、現実的に違ったスクリプティングやナビゲーションを使用したQAを実行、あるいはログデータを使用したQAを実施することも考えています。

奥村:単純にバグ検知などで、エージェントに回遊させてバグを発見することが、自然に導入されていくことも考えられますね。

一方で事例にもありますが、面白さのQAの話題は絶対に発生します。ゲームの面白さをどのように担保するのか、実際にQAは機械化できるのか、といった質問を受けることが増えてきましたね。

三宅:面白さのデバッグは、できないと考えます。ただ可能なのは、そのゲームが「面白くないこと」を検知することだと思いますね。

単純な問題点は、プレイ時間がかなり長いことが挙げられ、戦闘時間が長い、アイテムを上手に使えていない、などの要素も該当します。そのように面白くないパターン、あるいは問題がある部分は検出できるのではないでしょうか。さらにその部分を1つずつ潰していくのが、現実的な活用範囲ではないかと考えています。

奥村:確かにそうかもしれないですね。カードゲームなどで、追加カードのバリエーションが増えると、組み合わせばかりを推奨してしまいがちです。

そもそも、プランナーの認知限界を超えるような量の面白さを担保しないといけない時代に、突入しているのかも知れませんね。

その状況では、何かしら機械化を進めないと大変ですね。実際に長谷さんが人工知能アプリに携わって、面白さを緊張度のようなデータを、線形回帰で実施している資料を拝見したんですが、面白さはマトリクス化できるのでしょうか?

長谷:自分は過去に、ゲーム内の敵の生成や多彩な要素をAI側で整備する、メタAIの分野を担当していました。その中でプレイヤーの緊張度をコントロールする部分で、緊張度が現在どの程度なのかを推定するために、プレイヤーのプレイログから、線形回帰でプランニングからパラメータを抽出して、モデルを作成していました。

現在は、緊張度のデータが正確なのか、細部まで確認ができていないのが現状です。面白さのような、より抽象度の高い項目に関して、何かしらデータから導き出すのは難易度が高いと思っています。

奥村:その部分は本当に同意見で、どちらかと言えばAIの使いどころは、面白くない部分をどのくらい減らせるかといった「検知」に繋がることが、今後重要になっていくと考えています。

最後のトピックスは、ゲーム開発が普通のWEBサービスなどと若干異なる部分になります。ゲームでは面白さが大前提にあり、その仕様が直前に変更されることが多々あります。

例えば、当初の企画では、プレイヤーが1メートルしかジャンプしない設定だったところ、やはり1.5メートルジャンプした方が面白いのではないか、と直前に仕様が変わることが良くあるということです。

そのような開発フローは現在の現場でも続いていると思いますが、(その部分に関して)実は機械学習の導入が相性良くないのではないかと考えています。

要望通り、プレイヤーが高くジャンプできるように作り直したあと、その仕様に合わせて、もう1度ディープラーニングの学習を走らせてエージェントを作ってQA、というフローを毎回繰り返さないといけない部分もかなり多いと思うのですが、そのあたりはどう考えていますか?

三宅:QAの方にヒアリングすると、最初のデバッグは自分たちで作業したい、といった声が多く挙がっています。最初の通しプレイヤーとして、まずはどんなゲームか理解していないため、いきなりAIにデバッグをやらせるわけにいかない、という理由です。

ただ同じ検証を続けるなら、2~3回目ぐらいからはAIに任せたいという声も挙がっています。もちろん人間としても、繰り返し作業はしたくないですし、そちらをAIに作業してほしいと考えています。

ゲームは一種のアートでもあるので、プレイヤーは面白くないことがわかると絶対離脱してしまうんですよね。また、ジャンプの高さをちょっと変えたら、ナビゲーションは全部やり直しになってしまいます。

企画段階から、変更可能なサイクルを見越して体制を作っておかないと、機械学習がきちんと機能して終わりというわけにはいきません。再学習のコストも含め、作業がどれぐらいの速度で終息するのかを推測しておくことも必要ですね。

奥村:リスクマネージャーのような、ゲーム開発においてどこまで仕様の変更を許容するか、ハンドリングするポジションの人間が、どうしても開発には必要です。そこに機械学習が導入されると、再トレーニングやデータ収集プロセスも含めて、AIを活用するには、これまでの仕様を変えていく必要が出てきますね。

三宅:そうですね、海外ではゲーム開発の外部にコントロールする人間がいるんですが、日本はゲームデザインに関しては作家性を重んじる文化がありますので、ゲームデザイナーが変えると言えば、変えてしまう文化が残っており、仕組みとして止めるシステムがないのが、現実です。その部分は、日本特有の問題として今後残るかもしれないですね。

奥村:作家性と機械化の衝突みたいなのがありそうな気配がしますね。長谷さんはその部分で何か感じていますか?

長谷:現在自分が関わっているのはオンラインアクションゲームで、コンテンツや要素も多くてゲームシステム自体も複雑なんですが、複雑なゲームになればなるほど、多少の変更が多岐の要素に密接に関わるので、最初にレギュレーションを決めて、それに沿って開発をするように動いています。

もちろん面白くない部分があれば、組織全体を変更することもありますが、多少のことであればレギュレーションの範囲内で面白くするために工夫したり、現状を許容できるのであれば、AIを使ったテスティングの再学習をします。

それをしてでも、仕様変更をするべきものなのか、問題は大きくないから、この仕様は機械学習のエージェントを、再学習をする必要がないレベルで止めよう、といった判断が重要だと考えています。

異常探知

奥村:続いて最近増えている異常検知について、1つはチート対策が存在すると考えます。ゲーム内でチートしているプレイヤーを検知するものと、ゲーム開発においては、デバッグやバグ検知をなるべく上手く使い分けていきたいですね。

特に最近問題になっているのは、チート検知の部分です。多人数とマッチングする対戦プレイ可能なタイトルが増えてきており、その中のマルチ対戦のゲームでは、少数のチーターの存在が、ゲームの有益数を大きく毀損することが課題になっています。

奥村:例えば、ゲーム内に2%のチーターがいることにより、ダーティーマッチと呼ばれるチーターに巻き込まれる、本当に意味のない試合が約20%ぐらい生まれると言われています。やはりこれは無視できない数字ですよね。

少数のチーターも許せませんが、現在のプロセスではチェックしきれないほどユーザー数も多く、チートの技術も高度化しており、対処しきれないのが現状です。

その状況下で上手な対応として『Sudden Attack』の事例で、FPSでウォールハックと呼ばれる壁を透視する、敵がどこにいるかすべての情報を見れるチートがありますが、AIが判断した根拠が、注目度マップのように表示され、それをCSの人間がチェックしてチートだと判断、BANしやすくなっているシステムがあります。

奥村:このシステムによって、BANまでにかかる時間が24時間から数分に抑えられたという話題があり、結構面白いと思っています。

他には『Counter-Strike』などでも良く使用される、エイミングアシスタンスと呼ばれる必ずヘッドショットになる、銃のエイムを自動的に実行してくれるチートも存在しています。

また、ディープラーニングベースで『Overwatch』を使用して学習をしてみると、人間が報告すると精度が15%ぐらいしか出せないところ、AIを使うと80%ぐらいがチーターと判断されてしまう話もあります。このようにチートに関する部分にも、次々と導入が進んでいくと考えられます。

奥村:また、Kingではインシデント予測と呼ばれる、さまざまなメトリクスを監視して、異常らしき動きを検知すると、すぐにアラートを上げるような事例も公開されています。

異常検知については、結局人間の目検プロセスが不要になることはない、という話もありますが、どこまで自動化するのか、どこまで人間の解明が必要なのか、といった責任分界点に関係する話に関わって来ると思います。

三宅:各社の取り組みは、最終的なBANについては人間が絶対実行する方針ですね。リコメンドはAIが担当しますが、最後は人間が責任を持ってBANするシステムになっており、BANしたデータをまた機械学習に回すことで、AIがリコメンドの精度を上げて行く戦略が必要だと思います。

また、なぜそこまでコストを切るかというと、eスポーツの発展が関係しています。eスポーツの予選はオンラインで実施するため、そこで不正を検知できなければ、eスポーツそのもののビジネスが成り立たなくなります。

その問題も含め、各社コストをかけやすくなっているんじゃないかなと考えています。人間がチートするにしても、リスクとテーマはどんどん高くなるため、導入により一定の効果を発揮していると思われます。

長谷:現在開発しているゲームに関して、チート対策については、かなり話題に上がっていますね。

奥村:特にハッキングの部分ですかね。ゲームごとにチート検知の依存性ってどれぐらいあるのか話題になっていますね。

最近はクラウドゲーミングが登場して、ミドルAIも発達し、そのような機能がAPIとして提供されていくのはスゴイことですし、自社開発しなくても大丈夫なのではとも思います。異常検知に関する研究はこれからも続いていくと思いますが、今後の進め方は多岐に渡る気がしますね。

コンテンツ生成

奥村:コンテンツ生成技術に関しては、自然画像や人間の顔、食べ物や動物など、かなりフォトリアルな画像をAIが自動で生成可能になってきています。

超解像度やdenoisingの研究も大きく成長していますし、それが本物の写真なのか、AIが作った画像なのか、区別が難しい時代が訪れていますが、これからは、その技術をゲームにどうやって組み込むのか、が課題になってきます。

奥村:特にGAN(Generative Adversarial Network)などの技術は、人間の全身のように複雑な構造の生成はまだ困難なので、どうしても対象が限定されてしまうことが課題となっています。

DeNAで進めているプロジェクトでは、二次元の画像から構造などを踏まえて学習をして、後ろ向きに構造を変えてみたり、構造とセットで学習するトライアルをしています。

奥村:また、指定された構造やラフから生成する、あるいはコントローラブルな技術でGANを扱う案件は増えると考えています。

この技術を用いると、「このあたりを海や空にしたい」「この部分に木を置きたい」というざっくりとした要望を入力すると、それらしいフォトリアルな画像が生成できます。アニメ調のイラストも同様に生成が可能です。

最初に簡単なラフを作って、まず完成度70%ほどの画像を生成し、その後にアーティストが修正するみたいなプロセスの導入が進んでいくと思われますね。

奥村:それ以外にも、カメラのライティングやスタイルを変換する技術では、少ないアセットから夜や夕方のシーンを作れたり、季節の秋を冬に変えるなどの技術など、今度は可能になると考えています。

奥村:さらに、一枚の写真画像からメッシュやテクスチャを生成する技術もかなり進んできているので、3Dモデルが作りやすくなる時代も来るはずですね。普及の背景としては、学術研究はもちろん当然ですが、それ以上にゲーム業界でのニーズが高まっていることが要因と考えられます。

例えば『Assassin’s Creed Odyssey』などでは、シネマティックカットと呼ばれるストーリー上で重要なシーンの工数が、数時間から30時間に増えていますが、よりスマートにコンテンツを作るために、約20%を完全プロシージャル化しています。

つまり、あまり重要ではないシーンは、完全AI化してプロシージャル化し、草や木の位置など影響が少ない描写をAIに任せています。

ただし、重要な人間の表情や、ここはしっかりと演出したいというプランナーの思いが介在する部分については、人間がモーションキャプチャーを用いて、従来どおり細かく作り込んで演出する、というようにレベル分けをして作業しています。このような分業型の導入が今後は進んでいくと思います。

また、ラフスケッチからの生成に関して、地形などもラフのような画像からでもフォトリアルな画像が生成できるようになってきています。

長谷:最近のスマートフォン対応ゲームでは、画像が高精細になってきており、それに伴ってダウンロード時間などの課題も発生しており、それを解決するために小さい画像から超解像の技術を使って、高クオリティな画像を作れないかといった研究開発を続けています。

奥村:『Fantasy Raiders』というゲームでは、レベルに応じて自動生成するシステムを導入しており、単純に画像が生成できるだけじゃなく、マップのオブジェクトの配置や、そのユーザーの成熟度やキャラクターの疲労度などに応じて自動で生成してくれます。

キャラクターのHPの少なさなどに応じて、疲れている時はなるべく簡単なマップのオブジェクト配置にしたり、元気な時は難易度の高いマップを作ったりなど、普通はレベルデザイナーが頑張ってハンドメイドで調整している部分を、ある程度オートメーション化する未来はかなり近づいていると思われますね。

奥村:ですが、やはりコンテンツ生成のQAに関して気になるのは、場合によっては求める世界観に好ましくない画像の生成がされてしまうことです。

例えば、十字架が生成された場合、宗教のモチーフだからNGなど、倫理的に人間が見れば判断できる事象でも、AIには判断しにくいものを生成することもあります。その部分は実際どうなっていくのでしょうか?

三宅:以前、弊社のタイトルではありませんが、海外で開発ゲームタイトルで、あまり好ましくないオブジェクトが多く生成されてしまい、動画サイトにアップされ、ネガティブな意見が増えた事例がありました。QAの意味では、作った後にもう1度解析することも必要だと思われますね。

GANに関しては、あまりデザイナーの反応は良くなかったですね。3Dのオブジェクトを生成できたら使えると話していますが、現在の3DのGANについては、研究レベルでも論文が数本あるぐらいで、まだ完成は遠いと思われます。業界的には3DGANが完成してからは、かなり実用化が進むのではないでしょうか。

奥村:そうですね、実際どれぐらい機械化できるのか、完成までに何十年も必要な技術もありますしね。

アニメーションとメタAI

奥村:最後は、アニメーションとメタAIについて。アニメーションというのは主にモーションキャプチャーのような技術を想定しており、モーションキャプチャーで撮った画像を、3Dモデルに移行するときに点の位置がズレることがあります。それを人間が手動でチューニングするのではなくて、Solvingをディープラーニングで高精度化することが実施されています。

また、言語に合わせて唇の動きを変えるリップシンキングが、他の地域のローカライジングに役立っている話もあり、実際に実用化されています。

三宅:メタAIでは、ゲーム全体を俯瞰してコントロールをするAIですが、緊張度を取得して、全体をコントロールする傾向があります。

ゲーム全体の流れを作るAIにおいて、メタAIが構築するのではなく、ユーザーの心理状態をいかに把握するか、そこに機械学習を用いて、ある自動生成した時にユーザーの反応の良し悪しなど、統計から学習データを、ゲームデザイナーのノウハウを吸収していくような形の学習を考えています。

取材・文・撮影:細谷亮介

GeNOM(ゲノム)とは

DeNAのゲームクリエイターを様々な切り口で紹介するメディア(運営:株式会社ディー・エヌ・エー)です。ゲーム開発の現場で生まれる様々なエピソードや、クリエイター紹介、イベント紹介などを通して、DeNAで働くメンバーの”ありのまま”をお伝えしていきます。

GeNOMの最新情報は、公式Twitterアカウントやにて確認いただけます。ぜひフォローをお願いします!