2018 04 Dec

VRゲーム『VoxEl』開発メンバーが語る技術的な試行錯誤

VRゲーム『VoxEl』開発メンバーが語る技術的な試行錯誤

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2018.12.04

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『VoxEl(ボクセル)』開発メンバーにインタビュー

DeNAのR&Dの一環として開発が始まり、まだプロトタイプながら国内外の展示会で話題となった、『VoxEl(ボクセル)』。本作は少女「エル」に託された不思議なワンド(杖)を駆使して、仮想世界のギミックを解いていくVR専用の謎解きアドベンチャーゲームです。

今回、開発パートナーのあまた社を迎えて、開発中の苦労話や技術的なエピソードを交えながら、両社にお話を伺いました。

Profile

永田峰弘
株式会社ディー・エヌ・エー プロデューサー(兼ゲームデザイナー・サウンドクリエイター)

髙橋宏典
あまた株式会社 代表取締役社長

渡邉哲也
あまた株式会社 シニアプロデューサー兼ディレクター

研究開発目的で始まったVRゲームプロジェクト

――はじめに、『VoxEl(ボクセル)』の開発が始まったきっかけを教えてください。

永田:自分が前年度にVRタイトルを開発していて、その流れでVRゲームのR&D目的のプロジェクトが始まりました。あまたさんとは、『天華百剣 -斬-』の開発でもお付き合いがあり、別ラインでVRゲーム開発実績を持っていたことから、今回の取り組みがスタートしたのが経緯となります。

株式会社ディー・エヌ・エー プロデューサー(兼ゲームデザイナー・サウンドクリエイター)永田峰弘

――『VoxEl』にはあまた社で開発しているVRゲーム『ラストラビリンス』の技術的ノウハウが使われているのでしょうか?

髙橋:キャラクター表現ではノウハウが生きている箇所もあります。ですが、『ラストラビリンス』は閉鎖された空間からの脱出がテーマで、広い世界で旅するというコンセプトの『VoxEl』とはレベルデザイン的に方向性が真逆なため、描画負荷対策を含めて試行錯誤の連続でした。技術的には、ノウハウを活用しつつ大きく挑戦しています。

あまた株式会社 代表取締役社長 髙橋宏典氏

――開発に両社のスマホゲームのノウハウは生かされているのでしょうか?

永田:正直あまり関係はなかったです。スマートフォンのゲームでは小さな画面の中でバトル、強化や育成など、いかにプレイヤーに楽しんでもらえるかというプレイサイクルを中心に考えて開発していますが、VRではその空間で没入できるコンテンツが重要視されるので、ほぼセロベースからの検討になったといえますね。

髙橋:ただ、Unity開発なので、3D表示部分などはゲームのノウハウを使用しています。とはいえ、本作はモバイルではなくハイエンド向けタイトルなので、シェーダーや画作りなどはまったく違う工程になってます。

――なるほど。では、挑戦した部分や開発中に試行錯誤した点を教えてください。

永田:VR対応のアドベンチャーゲームは、本格的に作ろうとするとコストがかかるため、あまり市場に出ていません。そのため、毎日が挑戦の連続でした。また、今回の取り組みにおいても、リソースや開発期間、予算などは限られていますので、その中で最終計画を念頭に置きながら両社で話し合いながら進めていきました。

渡邉:試行錯誤した点と言えば、VRゲームでは強制的に視点を固定しにくいので、視線誘導で変化が起きた箇所を注視する仕組みを永田さんにチェックしてもらい、フィードバックを受けながら調整を重ねたことですね。

永田:特に、VR空間内での「サイズによる見え方の違い」のチェックは大変でしたね。プレイヤーがターゲットできるオブジェクトの大きさ、動かせるサイズがどのくらいあれば認識可能なのか、その確認から入っていきます。

現実の空間で50cmくらいあれば認識できるものでも、VR空間にポツンと置くと意外と分かりにくいんですよ。同時にテーブル程の広さなのか、広大な世界にするのか、謎解きの舞台となる空間の規模感も悩みました。

――実際にオブジェクトをVR空間内に配置して開発を進めていくんですか?

永田:ええ、そうです。配置パターンを複数用意して、プレイ確認しながら進めます。オブジェクトの質感によって印象も変わるので、何度も調整しました。

チームメンバーからの意見・要望を新アイデアに生かす

――両社のやりとりにはどんなものがありましたか?

渡邉:例えばプロトタイプの段階で「超巨大な鉄球を25mプールのような場所で風で飛ばす」というデカいギミックが企画で上がってきましたが、実際に作ってみた結果ボツになったものもあります。個人的にはおもしろかったんですが。

他のVRゲームでは、比較的小さな空間でパズルやキャラクターとコミュニケーションを楽しむ作品が多かったため、『VoxEl』ではあえて広い空間を使うアドベンチャーに挑戦しました。

なので、永田さんからは広大なスペースを使ったギミックの提案が多かったように感じます。一方、髙橋はこじんまりとしたギミックが好きなようで……。

髙橋:こじんまりというか、広すぎると影響範囲がわかりにくくなって、エルが相対的に小さくなり存在感が薄くなっちゃうなって。

永田:いくつかギミックを試作した結果、広い空間を設定してしまうと、エルの存在感が薄くなり、彼女が単純なコミュニケーションキャラクターになってしまうのが課題でしたので、ステージの規模やギミックのサイズ感など改めて修正して開発にフィードバックしました。

あまた株式会社 シニアプロデューサー兼ディレクター
渡邉哲也氏

――開発メンバーからどのような意見・要望が出ましたか?

髙橋:開発現場では、アーティストやレベルデザイナーなどのいろんな職種がフラットに意見を出しながら、既存のVRゲームには実装されていないようなアイデアを盛り込んでいきました。

渡邉:Primitiveで作ったレベルデザイン周りも、一旦は社内全員にプレイしてもらって、意見を吸い上げた後に永田さんとさらに調整していく、というフローにしました。

企画内容プレビューについては、「ユーザー目線ならどんなことを言ってもOKルール」を採用したので、意外にみんなが好き放題感じたことを言っていたのを覚えています(笑)。

VR機器に合わせた操作性の調整とボイスの有効性

――操作周りに関する質問です。本作のプレイはコントローラ1つのみでしょうか?

永田:ですね。実は開発途中では2つ使って、片方はエルと手をつなぐ設定だったんですよ。ですが操作が複雑になってしまうため、現在の仕様になりました。

VRコントローラをゲームの中で「ワンド」として使用。トリガーを押してエレメントを吸収します

――操作感に関する調整は大変でしたか?

渡邉:異なった設定パターンを複数作り、微調整をしつつ全員で実際に操作して決めていきました。

永田:両社でプレイして悩みながら「操作していて気持ちいい」設定を探していきましたよね。

――エレメント(※1)吸収中はずっとトリガーを押しっぱなし(※2)だと思っていました。

渡邉:おっ!そっちの操作のほうが良かったかもしれませんね。

永田:いや~、そこは迷ったんです……。

渡邉:開発の段階でその操作感は試したような気がします。なんでボツになったんでしたっけ

永田:(押しっぱなしだと)単純に指が疲れると思います。エレメントの吸収も、当初のアイデアだと他の属性も同時にワンドにストックできて、属性を選んで自由に使えるようにしてたので、その時の名残かも……。

操作を含めたワンドのグラフィック案は、かなりのパターンが考えられたようです。
 

編集部注釈(※1)エレメントとはゲーム内の謎解きに使用する各属性のエネルギーで、点在する属性ブロックからワンド(杖)に吸収して発射することでギミックを作動できます。

編集部注釈(※2)本来はエレメント吸収後にトリガーを離しても大丈夫。もう一度押し込むと発射します。

――プレイ中の「疲れ」に関する調整はありますか?

永田:そんなに疲れは気にせず、遊べるようになっています。ギミックが出現するタイミング、エルとの会話シーンなど、ゲームのテンポ感も考えています。チャプターを細分化してバランスを取れば、たくさんの謎を組み込むことができると思います。

――エルのボイス実装で、UI/UXにおける影響はありましたか?

ゲーム中は彼女がナビゲートをしてくれます。たまに謎解きのヒントを話すことも
ゴシック&クールな雰囲気が漂う、エルの初期デザインアイデアの一部です。
 

永田:VRではゲーム説明やルール解説を担う「チュートリアル」や「ガイド」の表現が難しく、いきなりメニューが表示されてしまうと、一気に興ざめする恐れがあります。

髙橋:突然宙に浮いてきた文字はなんなんだ、って。せっかく仮想空間で楽しんでいたのに、急に現実に引き戻されてしまう感覚です。

永田:そこで、エルにボイスを追加し、要所要所で会話をさせるナビゲート役にすることで、チュートリアルなどを組み込まなくても、基本的な操作などを学べるようにしました。

さらに、謎解きのヒントを語らせたり、単純にプレイヤーとコミュニケーションを取るなど、使い方のバリエーションも増えたので、UIの開発はほとんど必要なくなりましたね。

Unityでは可能、しかしVRでは苦手な「水の表現」

――技術的にボツになったものはありますか?

髙橋:VRでは、水の表現が難しいのです。VRは立体視なので、水の屈折を左右両目用に別々にレンダリングする必要がありますが、謎解きやギミックで広範囲に水が出てきたら確実にフレーム落ちします。

永田:ゲーム内に出てくるエレメントが火・風・土だけで「水」が出てこなかったのは、こういった理由でもあります。実は、火+水で水蒸気になる、火+火で爆発が大きくなる、みたいな夢が詰まったアイデアもたくさんあったんですよ!

髙橋:正攻法で作るだけだと、かなり厳しいですね。

永田:どうしても実装できずに外した機能はあります。ただ、現時点で限られた期間内で作るのは無理だと判断しただけで、今後グラフィックカードが進化したり、ゲームエンジンが発達すれば実装できる機能もあるはずです。

――他にUnityでは可能で、VRでは表現しにくいものってあります?

永田:粉じんや霧などは難しいですね。

髙橋:通常の3Dゲームでも炎や霧、煙など自然現象の複雑な動き、光の屈折などで処理は重くなるのですが、VRになるとそれを複数同時に描画しているので、さらに重くなる傾向があります。

――ギミックの爆発やシールドの表現はダイナミックでしたよ!

 

髙橋:爆発には、ちょっとしたテクニックを使っています。

渡邉:でも、燃えている炎など、VR空間でじっくり見ると怪しい箇所がわかるかもしれません。

永田:当初は「木を火で燃やす」などの複雑なギミックも考えていたんですが、残念ながら実装していません。

――VRでの表現の限界を考えてギミックも変更していくんですね。

永田:はい。もちろん開発期間もふまえて考えています。研究開発をもっと進められるようなら、今後最新技術も試してみたいですね。

髙橋:ただ、表現の開発だけに注力するわけにもいかないので、全体の進捗バランスやトータルコストも考えています。

イメージしたものをイメージ通りに作れた喜び

――開発が進むにつれて、仕様はどのように変化していきましたか?

永田:VRで3D酔いしないようにするため、開発途中で、移動の仕様を変更したことがありました。一度VRで酔った経験をしてしまうと、次は絶対に遊ぶのがイヤになります。それは避けたくて、移動方式を根本から見直しました。また、移動関連の仕様の変更で、世界観の見せ方もだんだんと変わっていきました。

――本作の開発を通して、これまでにない「得たもの」を教えてください。

永田:VRに関しては、資料で学んだり他のVRゲームをプレイしたときに得た推論の答え合わせができたことが、ひとつの成果だと感じています。

サウンドに関しては他のゲームを作る際とあまり大差なかったため、こだわったのは立体音響の部分くらいです。イメージしていたものが、イメージ通りに作れているのが何より嬉しいことです。

渡邉:やはりVRではボイスの存在が大きいと感じました。ボイスがなかったときは、エルの存在が空気になってましたが、永田さんが書いたセリフをエルが場面ごとに話すようになってから、プレゼンスがグッと上がりましたね。

――VRゲームの研究開発を続ける中で、技術的にも成長し、両社のこだわりが詰まった作品に昇華していったようですね。本日はありがとうございました。

 



R&Dを目的としてスタートしたVR『VoxEl(ボクセル)』プロジェクト。試行錯誤を繰り返しながら、技術的に数多くの「学び」を得たことを感じられるインタビューとなりました。本研究の成果がDeNAの他の事業にも生かされていく可能性があるかもしれませんね。

※本作はプロトタイプのため、今後の販売や配信などは一切未定となっています。